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  •  交通事故後に全身が痛むようになり,後に「線維筋痛症」と診断された原告が,加害者らを被告として治療費などの損害賠償請求について,原告の線維筋痛症が本件事故による頸椎捻挫等と無関係に生じたものとは考えがたく,両者の間に一応の因果関係の存在が認められるとして,原告の請求を一部容認した事例。

H18.10.13 山口地判 事件番号 平15(ワ)58

  • 判決
    • エ このように,原告の線維筋痛症の原因については,線維筋痛症の発症の機序そのものが医学的に明らかになっていないため,現時点において科学的に特定することは不可能であるが,

      これまでに得られている知見や,本件事故により原告が頸椎等に受けた物理的衝撃の大きさを考慮すれば,本件事故による物理的衝撃がまず第一に挙げられるべきものであると言える。

      しかしながら,これらと並んで,頸椎の加齢性変性や心因的要素も,線維筋痛症の発症や増悪をもたらす有力な要素となった可能性も高いと言わざるを得ない。

      オ そこで,これらを総合すれば,原告が線維筋痛症を発症するについて,本件事故の与因の程度は全体の25パーセントと見るのが妥当であると考える。

H18.09.28 東京簡判 事件番号 平18(ハ)5197

  • 判決
    • 第2 事案の概要

      本件は,普通乗用自動車同士の接触事故であり,原告が,被告Aに対し,不法行為(民法709条)に基づき,車の修理代金43万3398円,評価損40万円の合計金83万3398円及び遅延損害金の支払を求めたのに対し,

      乙事件原告が,本件事故により,被告A車両に生じた修理代金46万2125円を被告Aとの自動車保険契約に基づいて同人に支払ったことにより,商法662条に基づき,原告に求償した事案である。

      1 争いのない事実

      平成18年1月10日午前9時5分ころ,東京都世田谷区ab丁目c番d号先の住宅地の中を走る交通整理の行われていない交差点において,

      優先道路を直進し同交差点上に差しかかった原告の運転する普通乗用自
      動車(以下「原告車」という。)と優先道路に交差する非優先道路を直進し同交差点を通過しようした被告Aの運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが,

      同交差点上において出会い頭で衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

      損害のうち原告車の修理代金は43万3398円,被告車の修理代金は46万2125円であり,乙事件原告の前記保険契約による支払額は46万2125円である。

      2 争点

      (1) 本件事故態様及び過失割合

      (原告の主張)

      本件事故は,優先道路を直進していた原告車が,交差点を徐行して通過しようとしたところ,

      非優先道路を直進していた被告車が,一時停止の標識があるにもかかわらず,一時停止も徐行もせず,前方の確認を怠って,交差点に進入した過失により,原告車と被告車とが交差点上において出会い頭で衝突したものであり,当事者双方の過失割合は,被告車が100パーセントである。

      (被告A及び乙事件原告)

      被告Aは,本件交差点手前から原告車進行道路の左右の安全を確認しながら,アクセルを軽く踏み,そろそろと徐行して本件交差点に進入し,中央付近に達したところ,

      左方より,原告車が,通常の速度で本件交差点に進入してくるのを発見したため,急いでブレーキを踏み,すぐに停止したが,間に合わず,原告車と衝突した。したがって,原告車にも,一定の過失があり,当事者双方の過失割合は,原告車が30パーセント,被告車が70パーセントである。

      (2) 評価損の存否及び評価損の請求権者は誰か(請求権の帰属)

      (原告の主張)

      原告が,原告車を売却又は下取りに出す場合の査定をしたところ,本件事故による車両格落損は,40万から50万円であった。その際,フロントエンジン周りにネジをはずした形跡やエンジンフードが取り外された形跡が明らかに残っていると指摘され,ディーラーで再販売をかけるときには,事故歴,修復歴なしとはいえないとして,前述のとおり下取り価格はかなり低額だった。

      (被告Aの主張)

      評価損とは,車両の交換価値の低下により生じる損害であるから,その所有者に生じる損害であるところ,本件では,登録事項等証明書上の所有者と原告との間で,所有権留保契約が締結されているのであるから,評価損の請求権は,原告ではなく,所有権者である売り主に帰属すると解すべきである。

      また,評価損の請求権者が誰であるにせよ,本件において,原告車の損傷部位,程度等からすれば,原告車に評価損が生じる合理的根拠は一切なく原告の評価損の主張は認められるべきではない。

      第3 当裁判所の判断

      1 本件事故態様及び過失割合(争点1)について

      (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

      ア 交差点にはミラーが設置されていたが,被告車の進行方向から向かって左から交差する道路(原告車が進行する道路)と原告車の進行方向から向かって右から交差する道路(被告車が進行する道路)は,同ミラーにより互いの接近を確認できない。

      また,被告車の運転席が一時停止標識の位置に至って初めて上記原告車が進行してくる道路が望めるようになる。

      イ 被告車の進行する道路の道幅は,約4メートルくらいであり,事故当時一時停止標識手前付近に,軽自動車が2台続けて停車していたことから,

      被告車(トヨタクラウン)は,徐行程度の速度で上記軽自動車の脇を通過して,一時停止標識の手前で一瞬停止し,すぐにアクセルを軽く踏み,交差点入り口では左方向は確認せずにそのまま進入しようとしたが,その瞬間,クラクション音が聞こえ,ほぼ同時に原告車と衝突した。

      衝突箇所は,原告車が前部バンパー右端とボンネットに係る部分,被告車が前部バンパーから左側前輪のホイール付近である。

      ウ 原告車は,本件交差点手前40メートル付近にある自宅から発車したばかりであり,自宅からすぐ近くに本件交差点があることからさほど速度は出していなかったが,交差点手前に来て,右方道路から進入しようとしていた被告車を認め,クラクションを鳴らし,制動したものの被告車に衝突した。

      (2) 以上の認定事実を前提に以下検討するに,非優先道路から交差点に進入する車は,優先車の進路を妨害しないこと,特に見通しの悪い交差点の場合,一時停止をしたとしても,発進する場合には優先道路を走行する車に自車の存在を知らせるために,徐々に少しづつ自車の頭出しをし,優先車があった場合にはいつでも停止できるよう十分に注意を払った走行をすることが求められるところ,

      被告車は,優先車である原告車の存在に気づかず,かつ,求められる上記注意義務を怠ったために本件事故が生じたと認められる。

      したがって,被告車の過失は大きく,本件事故の主たる原因となったことはいうまでもない。

      一方,優先道路から交差点に進入する車は,本件のような住宅地の中を走る互いに見通しの悪い交差点手前では,優先関係はあったとしても,通過する際には,非優先道路からの進入車や人の飛び出しに注意して走行するなど,特に安全に進行する義務(道路交通法36条4項)が求められるところ,

      原告車はこれを怠っているというべきであり,本件事故発生への原告車の責任を全く否定することはできず,原告にも相応の過失が認められる。

      (3) 以上検討した結果,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,双方の過失割合は,原告車が20パーセント,被告車が80パーセントと認めるのが相当である。

      評価損の存否及び評価損の請求権者は誰か(請求権の帰属)

      (争点2)について

      事故当時の被害車両の評価価格と修理後の減価した評価価格との差額が評価損いわゆる格落損であるが,これは,潜在的・抽象的な損害であり,これが損害賠償によって請求しうる損害と認められるためには,顕在化・具体化することが必要である。

      そのためには,当該事故による損傷の部位及び程度,修理の内容及び額,機能的障害及び外観的欠陥残存の有無などから総合して判断すべきである。

      本件をみてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件事故による損傷程度は比較的軽度であり,修理内容は,フロントバンパーやエンジンフード等を主な取替とし,その他も塗装や補修に係るものであり,

      フレーム等車体の基本的骨格部分に係わるものでないこと,修理費用は43万3398円であること,修理後は機能上及び外観上も原状回復され,機能的障害及び外観的欠陥は残存してないことが認められる。

      したがって,本件事故により生じた評価損は,いまだ顕在化・具体化したということはできず,損害賠償によって請求しうる損
      害と認めるに足りない。

      以上により,その余判断するまでもなく,評価損についての原告の主張は採用できない。

      3 以上によれば原告の損害は,前記修理代金43万3398円から責任割合を減額した34万6718円であり,乙事件原告は,前記保険支払額46万2125円から被告Aの責任割合を減額した9万2425円の限度で代位請求することができる。

      4 よって,原告の被告Aに対する請求は,34万6718円及びこれに対する平成18年1月10日から支払済まで,乙事件原告の原告に対する請求は,9万2425円及びこれに対する平成18年1月26日から支払済までそれぞれ年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払を求める限度でそれぞ理由があるから上記範囲でこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却し,主文のとおり判決する。

  • 弁護士の守秘義務違反

H18.09.27 大阪地判 事件番号 平18(ワ)1464

  • 判決
    • 弁護士法23条は,弁護士はその職務上知り得た秘密を保持する義務を負うと規定し,弁護士倫理第20条にも同旨の規定がある。

      原告と被告との間に,本件メールのみによって委任関係が発生すると考えることはできない。しかし,上記の規定から明らかなとおり,

      弁護士が守秘すべき秘密とは,委任関係を有する依頼者の秘密に限定されるものではなく,弁護士が職務上知り得た秘密が広くその対象になると解されるのであるから,

      原告と被告との間に委任関係がないことは,被告が原告に対する関係で守秘義務を負うと解することの妨げとなるものではない。

      上記の規定にいう「職務上知り得た」とは,弁護士でなければ知ることができなかったであろうが,弁護士であるが故に知り得たという意味であると解される。

      本件メールは,被告がa県で活躍している弁護士であることを理由として,原告がセクハラを受けたことや受任弁護士の対応に関する原告の心情を伝えたうえ,

      不満足な内容の和解で解決するほかないのか,司法の場で解決することはできないのかと述べるものであって,

      被告が弁護士でなければ,原告が自分のセクハラ被害をメールで伝えることもなく,受任弁護士の対応に不満を述べるはずもないと考えられることからすると,原告がセクハラ被害を受けたことだけでなく,

      原告がセクハラ被害を受けたことにつき受任弁護士に相談していること,そのことに対する不満,不安を被告に述べたということも,被告がその職務上知り得たことがらにあたると解される。

      また,秘密とは,世間一般に知られていない事実で,社会通念上,本人が第三者,特に利害関係のある第三者に知られたくないと考える事実,考えるであろう事実を意味すると解される。

      本件で,原告が被告に本件メールを送信したことが秘密にあたるかということが問題となるが,原告がB弁護士,D弁護士に事件処理を委任しているときに,

      その同じ内容を,B弁護,D弁護士に内緒で他の弁護士に相談していることをB弁護士,D弁護士に知られれば,B弁護士,D弁護士としては,

      自分たちが原告から信頼されていないのではないかと考え,原告との関係が悪化することは容易に予想されるところである。

      したがって,原告が,B弁護士,D弁護士に依頼しているセクハラ問題につき,B弁護士らの対応についても記載された本件メールを同じ弁護士である被告に送信したことは,原告にとって秘密にあたると解するの
      が相当である。

      (3) したがって,被告は,原告から本件メールの送信を受けたことをD弁護士ら第三者に守秘すべき義務があるというべきである。 

  • U型道路側溝の蓋が5?ほど持ち上がっている状況を,国家賠償法2条にいう道路管理の瑕疵と認め,その蓋につまずき転倒して負傷した者に8割の過失相殺をした損害賠償請求を認めた事例

H18.08.02 最高(二小)判 事件番号 平17(ハ)4372

  • 判決
    • 2 主な争点

      (1) 本件歩道の管理に瑕疵があったか。
      (2) 原告の損害額
      (3) 過失相殺

      3 当事者の主張

      (1) 争点(1)(道路管理の瑕疵)

      (原告の主張)

      ア 本件側溝の蓋は,本来の歩道部分でないものの歩道とほぼ同一地表面になるよう設計し設置されており,本件歩道は,北側にH公園が隣接するため,人が多数歩行することもしばしばで,繁雑時には本件側溝の上を人が通行することも当然想定されている。

      イ 被告は,道路管理者として本件歩道を適正に管理する義務があるにもかかわらず,本件側溝に土砂が溜まりやすい事実,及び本件事故現場の本件側溝に大量の土砂が堆積していた事実を看過し,堆積した土砂の除去作業も一切行わなかった結果,

      雨水による本件蓋の持ち上がりという危険な状態を招き,しかもこの危険な状態をも看過しており,道路管理者として通常必要とされる管理行為を行っていなかった。

      ウ 本件蓋は,被告の管理不十分により約5センチメートル不自然に持ち上がっていた。それは,隣の蓋にかかって持ち上がるという異常な持ち上がりであり,瑕疵に当たることは明白である。

      (被告の主張)

      ア「瑕疵」とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,その判断は,営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的にすべきものとされている。

      また,当該事故が,一般の人が通常の注意を払っていれば,回避可能であるか否かという判断要素も重視される。

      イ 以下の本件歩道の客観的状況などから,一般の歩行者が通常の注意をもって歩行すれば,本件蓋の状態に気づいて転倒事故の回避が期待でき,十分に安全性は確保されているのであるから,本件歩道が通常有すべき安全性を欠いている状態とはいえない。

      (ア) 本件蓋が持ち上がっていた程度は5センチメートルほどである。

      (イ) 本件蓋は幅員2.5メートルの本件歩道上の一番端に位置する。本件歩道は,本件蓋の幅0.4メートルを除いても歩行部分は2.1メートル存し,仮に自転車が本件歩道上を走行したとしてもなお十分な歩行スペースが確保されている。

      (ウ) 本件歩道の本件事故現場付近は非常に見通しが良く,本件蓋付近の視界を遮るものはない。

      (エ) 甲9によれば,「向こうから自転車が来るのを認めて,私は,その人が通り抜けやすいように左へ寄って,親切心から道をゆずってあげたのです」と,原告自ら述べるとおり,本件事故に急迫性は認められない。

      ウ 本件事故現場は,雨水等の排水を目的とする側溝上であり,蓋は人が転落することを防ぐものである。側溝蓋上は本来的には人の歩行を目的としていない。

      また,その蓋は取り外しが可能な幅40センチメートル,長さ60センチメートルのコンクリートブロックが連続する構造となっており,アスファルト舗装された本来の歩道部分とは明らかに構造が異なる。

      その構造,用法等の諸般の事情を総合考慮すれば,本件側溝及び側溝蓋が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない。

      エ 本件道路の管理

      (ア) 本件蓋が持ち上がった原因は,本件蓋下のU形側溝内部に土砂や異物が堆積して側溝の流水断面を狭め,そこへ容量を超える雨水が流れ,その水圧によって浮き上がったものと推測される。

      しかし,本件歩道は全部にわたり舗装してあり,また,本件歩道に存する側溝にはすべて蓋がしてあるから,土砂や異物等が侵入することを予測することは困難であり,まして傾斜する本件歩道において,異物等が流下しないまま側溝内に堆積することを予測することは不可能である。

      (イ) 被告は,被告が管理する道路の構造を保全し,円滑な交通を確保するため,「名古屋市道路パトロール要綱」(以下「パトロール要綱」という。)及び定期パトロール実施計画作成基準(以下「パトロール基準」という。)に従い,実施計画を作成し,それに基づき道路の定期パトロールを行っている。

      そして,本件道路は主要道路であり,パトロール基準により,週1回程度のパトロールを実施することとされている。

      そして,被告は,本件事故が発生した平成16年8月において,事故発生日の22日までの間に,2日午後,3日午後,6日午前,12日午前,13日午後,18日午後及び19日午後の計7回,パトロールを実施しており,その際,本件道路に円滑な交通の障害となる危険箇所等は発見されていない。

      (ウ) 被告が管理する道路の総延長は,名古屋市域全体で6138キロメートル余にも及んでおり,そのすべての道路を市内16区に配置された各土木事務所において,限られた職員で対応している現状では,自ずとその頻度,方法には限界がある。

      通常予測される安全性の程度を越える安全基準を設定し,これにわずかでも及ばない状況に逐一対応することはおよそ不可能なのであり,わずかな蓋のずれまでも発見することは,困難と言わざるを得ない。

      (エ) 本件事故が発生する以前,本件道路において,本件蓋が持ち上がっている,あるいは,その他本件道路の危険等を指摘する市民からの通報は一切なく,被告は,本件蓋の持ち上がりを確知し,補修等の対応をする余地はなかった。

      (オ) したがって,被告は,本件道路ないし歩道について,通常予測される安全性の欠如に対する管理行為は尽くしており,本件蓋持ち上がりの出現は,その管理行為が及び得ない事態であったというほかない。

      (2) 争点(2)(原告の損害額)

      (原告の主張)

      原告の損害総合計111万9380円

      ア 医療費2万0090円
      イ 通院交通費合計1万6150円

      タクシー代7350円
      公共交通機関による通院費
      1日当たり400円×20日=8000円
      片道当たり200円×4日=800円

      通院交通費については,マイカーを使用した場合の交通費は公共交通機関を利用した場合における交通費に引き直して請求するのが通例である。

      ウ 眼鏡修理費(レンズ破損) 2万8140円

      エ 通院慰謝料95万円

      財団法人日弁連交通事故相談センター発行にかかる交通事故損害額算定基準19訂版100頁記載の入・通院慰謝料表による金額

      オ 弁護士費用10万5000円

      原告は,本件事件処理を原告代理人に委任するに当たり,着手金10万5000円を支払,かつ報酬として被告から支払を受けた金額の15%相当額を支払う旨約束した。よって,被告は,上記弁護士費用のうち少なくとも着手金相当額を負担すべきである。

      (被告の主張)

      ア 医療費については,原告がその費用を支払った事実は認める。ただし,損害賠償の対象となるのは,相当通院期間における医療費に限定される。

      イ通院交通費は,否認する。

      原告は,名古屋市内の市バス,地下鉄等の公共交通機関を無料で利用できる敬老パスを所持しており,市バスを無料で乗車できた。

      マイカーを利用した日もあり,通院交通費は実費が原則であり,自家用車の場合には,実費相当額(ガソリン代等)である。

      ウ メガネ修理費は,同費用を要した事実自体は認める。

      エ 通院慰謝料は,否認する。

      オ 弁護士費用は,知らない。

      (3) 争点(3)(過失相殺)

      (被告の主張)

      本件事故は原告の過失によるものであるから,過失相殺(原告9割,被告1割)を予備的に主張する。

      ア 本件事故当日の名古屋市の天気は晴れ,日の出時刻は,本件事故発生時刻より前の午前5時17分であり,本件事故発生当時,本件歩道は歩行に支障のない明るさがあったのであるから,

      本件蓋の位置,周囲の状況等の客観的状況を併せ考えると,歩行者が本件蓋を目視すれば,蓋が持ち上がり段差が存することを容易に確認できた。

      イ 歩道上の舗装された部分においては平坦であることは期待されるであろうが,十分な幅員を有する歩道の隅に存する側溝の蓋まで常に平坦であることが期待されるとまでいえるか疑問である。

      取り外しが可能な蓋である以上,ずれは当然生じうるし,隙間も存することも不自然ではない。

      また,側溝蓋の構造上,蓋と蓋との間には隙間が存し,各ブロックには取り外す際に手を入れることができるだけの手掛け部分が存し,蓋設置状態においては,かかる手掛け部分は完全に穴となるものである。

      このように側溝部分は,他のアスファルト舗装部分とは構造が異なる。

      何らかの事情でかかる側溝上を歩行する場合には,自ずと歩行者に課される注意義務は高まり,ずれによる段差や隙間に注意して歩行することが求められ,歩行者においても側溝であることは容易に判別できるのであるから,そのような注意義務を尽くすことの期待可能性も十分に存する。

      ウ 原告は,自転車をやり過ごした後,側溝上にいることを認識した上,本来の歩道に戻ることも可能であったのに,敢えて側溝上を進行し,本件側溝上に移動した位置から本件蓋まで視界を遮るものはないのに,本件蓋の持ち上がりを見逃して,漫然と進行した過失がある。

      (原告の主張)

      ア 歩行者は,歩道脇の蓋付きU形側溝は平坦なものであるとの認識で通行するのが通常であり,側溝の蓋が5センチメートルも持ち上がっている状況など予測しておらず,もちろん歩行者にはそのような異常な事態を予測すべき義務もない。

      イ 歩道上を歩行する際,一歩一歩進行するたびに足下の道路状況を詳細に確認する注意義務を認めることは非現実的であり,そのような注意義務を原告が負うとする被告の主張の不当性は明白である。

      ウ 本件事故発生時の状況

      (ア) 本件事故発生時における本件歩道の通行状況は早朝散歩の人,犬の散歩の人,ジョギングの人,太極拳愛好家グループの人,鳩にえさを与える人,ゲートボール愛好家など多数の人が頻繁に行き交っている状況であり,原告の前にも後ろにも横にも交互に人が絶え間なく行き交っていた。

      (イ) 本件側溝上を人が通行することも想定されていることは,争点(1)の原告の主張アのとおり

      (ウ) 原告は,本件歩道を東方から西方へ夫の後を歩行してきたが,対向方向から通行してくる新聞を前後の荷台に積載した自転車を発見し,危険回避が必要であると判断したが,原告の右側には女性が1人,原告とほぼ並行して歩行中であったため,本件側溝上へ退避した。

      その後,原告は,自転車が通り過ぎた後,歩道に沿って本件側溝の上を1,2歩南西方向へ進行した途端,本件蓋につまずき,転倒した。

      (エ) 以上の状況等からすれば,原告の本件側溝上を1,2歩進行した行為は,歩行者としての過失に当たらないことは明白である。

      第3 当裁判所の判断

      1 争点(1)について

      (1) 本件事故現場の状況は,争いのない事実等(3)のとおりであ
      る。

      側溝は,雨水等の排水を本来の目的とするものであるが,本件側溝は歩道の一部であって,蓋がされて本来の歩道部分と段差がないのであるから,人が歩くことも当然予想される。

      そうすると,本件蓋が5センチメートルほど持ち上がっている状態は,歩行者がそれにつまずいて転倒する危険性は十分にあり,本件歩道には通常有すべき安全性を欠いていたと一応認定することができる。

      被告は,一般の歩行者が通常の注意を払っていれば,本件蓋の持ち上がりに気づき,転倒事故は回避できるから,瑕疵は存在しない旨主張する。

      しかし,通常の歩道において,歩行者に足下の道路の状況に常に注意を払う義務を認める法的根拠はなく,また,本件事故当時,本件歩道において歩行者にそのような注意を払うことを求め得るような事情はうかがわれないので,

      一般の歩行者が通常の注意を払えば,常に本件蓋の持ち上がりに気づいて転倒事故を回避できるとまでは認められず,被告の主張は採用できない。

      (2) 次に,本件歩道について,通常予測される安全性の欠如に対する管理行為は尽くしており,本件蓋の持ち上がりの出現は,管理行為が及び得なかった旨の被告の主張について,判断する。

      証人I,甲12の3,甲13の1~6,乙6,乙7,乙8及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

      ア 争点(1)の被告の主張エ(イ)及び(エ)のとおり,パトロールが実施されたこと,本件事故が発生する以前,本件蓋が持ち上がっていることを指摘する市民からの通報がなかったこと。

      イ 被告は,本件事故が発生するまで,本件蓋の状態を認識していなかった。

      ウ 本件事故発生当時,本件側溝の蓋は,取り外し可能な手掛け部分のあるコンクリート製のブロックであった。

      エ 本件事故発生当時,本件蓋が持ち上がっている状態について,その付近の本件歩道や車道からの見通しを妨げるものは存在しなかった。

      オ 本件蓋の持ち上がりの状態は,本件事故の翌日平成16年8月23日,A土木事務所の職員によって,補修された。

      (3) 以上の事実によれば,市民からの通報もなく,定期パトロールで本件蓋の状態を発見できなかったのであるが,本件側溝の蓋の構造上,異物が混入したり,隙間が生じたり何らかの異常が生ずることは当然予想されるところであり,

      本件側溝を目視さえすれば(それは現状のパトロールでも十分に可能と思われる。),本件蓋の持ち上がり状態を発見することは十分に可能であり,発見すればその補修も容易に可能であった。

      次に,本件蓋の持ち上がり状態の発生の時期によっては,本件事故発生前に本件蓋の状態を発見可能であったか問題となるが,その本件蓋の状態は,本件事故発生日の直近に実施した同年8月19日のパトロール実施後に発生した旨の主張立証がないので,それ以前に本件蓋の状態が発生し,本件事故発生前のパトロールで発見可能であったものと認める。

      したがって,本件蓋の持ち上がり状態が生じてから,本件事故発生までの間に,被告においてその状態を発見し,補修することは,十分に可能であったと思われる。

      2 争点(2)について

      原告は,本件事故により,次のとおり合計91万1380円の損害を受けたことが認められる。

      (1) 医療費2万0090円

      原告が医療費として支払った金額には争いがないところ,原告本人,甲1から甲3まで及び甲5の1~25によれば,その金額を認めることができる。

      (2) 通院交通費1万3150円

      原告本人,甲5の19~25,甲9,甲11及び弁論の全趣旨によれば,平成16年10月まではタクシー又はマイカーで,同年11月からは名古屋市営地下鉄で通院したこと,平成16年11月以降の通院回数は7日であること,原告が名古屋市内の市バスや名古屋市営地下鉄を無料で利用できる敬老パスを所持していること,

      以上の事実が認められるところ,通院交通費について,原告の年齢,負傷の状況等からみてタクシーの利用は相当と認められるので,領収書のある範囲でタクシー代相当額を,領収書のないタクシー及びマイカー利用については,低廉なバス代料金相当額を認めることが相当である。

      地下鉄の利用(14回)については,無料で利用できるので,その分については通院交通費は認められず,この認定を覆すに足る証拠はない。

      したがって,全部の通院片道回数49回(本件事故当日は救急車により搬送)のうち,タクシー代相当額7350円(甲6の1~6。6回)及びバス代料金相当額5800円(200円×29回)の合計1万3150円の範囲で認めることができる。

      (3) 眼鏡修理費2万8140円

      (4) 通院慰謝料85万円
      原告本人,甲1及び争いのない事実等によれば,原告は,本件事故により,右橈骨遠位端骨折,顔面挫創,両膝挫傷の傷害を負い,通院期間109日間で通院回数25日の通院治療を受けたことが認められ,これを慰謝するには85万円が相当である。

      3 争点(3)について

      (1) 原告本人,甲11及び甲13の1~6によれば,以下の事実が認められる。

      ア原告は,本件事故発生前,自転車を待避するため,本件側溝上に移動して立ち止まり,自転車をやり過ごした後,側溝上であることを認識しながら,本件側溝上を歩き始め,1,2歩南西方向へ進行したところで本件蓋につまずき,転倒した。

      本件事故現場付近の本件歩道は,本件側溝部分を除いても,相当程度の歩行スペースがあり,原告が本件側溝上を歩き始めてから本件事故発生時までの間,そのスペースの歩行を妨害するような障害物等は存在せず,また,再びそのスペースに戻るのに支障はなかった。

      なお,原告は,本件訴え当初,散歩中突然前方から走行してきた新聞配達人の自転車を認めた際,衝突の危険を感じ,同自転車を避けようとして歩道左側の側溝方向へ反射的に体を退避した際,約5センチメートル不自然に持ち上がっていた側溝の蓋に足を取られて転倒し受傷したものであり,とっさの危険回避行動である旨主張していたが,先に認定のとおりで,原告のこの主張は採用できない。

      イ 原告は,本件事故発生当時,本件蓋が持ち上がっていることに気付いていなかった。

      ウ 本件事故発生当時,本件蓋が持ち上がっている状態について,その付近の本件歩道上からの見通しを妨げるものは存在しなかった。

      (2) 以上の認定事実に争いのない事実等を総合すると,原告が,本件蓋の持ち上がっている状態を発見することは十分に可能であったのであり,何ら合理的な理由なく本件側溝を歩行したことが本件事故発生の一つの原因であるから,過失相殺が認められてしかるべきであり,その過失割合は原告8割と認めるのが相当である。

      そうすると,被告が原告に対して負う損害賠償義務は,原告の損害91万1380円のうち,その2割である18万2276円となる。

      4 弁護士費用

      事案の内容,認容額その他の事情を総合考慮すると,弁護士費用のうち2万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

      5 以上によれば,原告の請求は金20万2276円及び本件事故の日である平成16年8月22日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その範囲で認容することとし,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。

  • 信号機等により交通整理の行われていない交差点において加害者の運転する自動車が自転車横断帯に接する横断歩道上を横断中の被害者の運転する自転車に衝突して被害者を負傷させた事故が道路交通法施行令(平成16年政令第390号による改正前のもの)別表第1の2の表の適用に関し専ら加害者の不注意によって発生したものとされた事例

H18.07.21 最高(二小)判 事件番号 平17(行ヒ)149

  • 判決
    • (1) 前記事実関係によれば,本件事故の際,被害自転車が進行してきた方向から被上告人車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特にないのに,被害者は,死角となっている進路右方の安全に気を取られて,被上告人車の進行してくる方向を注視することなく本件交差点に進入したというのである。

      (2) しかし,前記事実関係によれば,本件交差点においては信号機等による交通整理が行われていなかったところ,被上告人側道路に一時停止の規制があったのであるから,被上告人側道路の車両の通行よりも交差道路の車両の通行が優先する関係にあったということができる。

      さらに,車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がないことが明らかな場合を除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,

      この場合において,自転車横断帯によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)。

      前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではないというべきである。

      また,被上告人は,本件交差点に入ろうとし,及び本件交差点内を通行するときは,本件交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法36条4項)。

      これらの自転車横断帯等における自転車の安全を確保する義務や交差点安全進行義務は,自動車運転者にとって交通事故を防止する上で基本的なものであるということができるから,被害者としては,被上告人がこれらの義務を遵守することを十分に信頼することができる立場にあったというべきである。

      そして,前記事実関係によれば,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特になかったというのであるから,被上告人は,被害自転車を発見し,衝突を回避することが十分可能であったにもかかわらず,上記義務を怠り,本件事故を発生させたというべきである。

      (3) そうすると,令別表第1の2の表の適用に関し,被害者が被上告人車に気が付かず,その動静に注意しないまま横断歩道上を横断しようとしたことをもって,被害者の不注意と評価すべきものではなく,本件事故は,専ら被上告人の上記不注意によって発生したものというべきである。
      5 以上によれば,被上告人の違反行為に係る累積点数は15点に達するから,本件処分に違法はなく,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 

  • 「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する場合における事故の偶発性についての主張立証責任

H18.06.06 最高(三小)判 事件番号 平17(受)2058

  • 判決
    • 商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。

      同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事
      由として規定したものと解される。

      本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」を保険事故として規定しているが,

      これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものであり,

      他方,前記約款第4章第1節第3条の条項は,保険契約者,被保険者等が故意によって保険事故を発生させたことを,同法641条と同様に免責事由として規定したものというべきである。

      本件条項にいう「偶然な事故」を,同法629条にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。

      したがって,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。

      原審の引用する前記平成13年4月20日第二小法廷判決は,傷害保険についてのものであり,本件とは事案を異にする。 

  • 「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき車両の水没が保険事故に該当するとして車両保険金の支払を請求する場合における事故の偶発性についての主張立証責任

H18.06.01 最高(一小)判 事件番号 平17(受)1206

  • 判決
    • 車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。

  • 交通事故により高次脳機能障害を負ったことを認め,損害賠償請求等を認容し,損害賠償額を変更した事例

H18.05.26 札幌高 破棄自判 事件番号 平16(ネ)60等

  • 判決
    • 外傷性による高次脳機能障害は,近時においてようやく社会的認識が定着しつつあるものであり,今後もその解明が期待される分野であるため,現在の臨床現場等では脳機能障害と認識されにくい場合があり,

      また,昏睡や外見上の所見を伴わない場合は,その診断が極めて困難となる場合があり得るため,真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護に欠ける場合があることをも考慮し,当裁判所は,控訴人が本件事故により高次脳機能障害を負ったと判断する

  • 交通事故による被害車両(14トン車)の休車損を証拠上認定することは困難であるとして,民事訴訟法248条により,原告の所有車両中,目的用途等を同じくする中長距離用大型車12台の過去4か月分の総売上金額の5割が人件費総額と仮定して,売上粗利益から人件費総額を控除し,1日当たりの平均収益1万3000円を休車損と認定した事例

H18.04.11 名古屋簡判 事件番号 平17(ハ)5442

  • 判決
    • 4争点

      休車損の有無及び損害額

      第3当裁判所の判断

      1争点について

      原告が運送会社で,原告車以外にも貨物自動車を相当数保有し,本件事故による原告車の修理期間中15営業日に原告車を使用できなかったことは当事者間に争いがない。

      証拠(証拠中,甲8は甲4ないし6で読み替え。別紙のとおり。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件事故当時,稼働可能な貨物自動車を36台保有し(甲6,8),そのうち中長距離用大型車は12台で,原告車と同じ14トン車は他には23/4台しかなく,

      大型車の残り9台は13トン車1台と10トン車等8台であり(甲4),原告の月別売上粗利益(月間売上総額から高速代,燃料費,修理費の合計額を控除した額。以下同様。)は,全車輌合計で平成14年1月が1763万円(万以下切捨て。以下同様。),2月が2045万円,3月が2198万円,4月が2357万円であり,

      中長距離用大型車12台合計では,1月が919万円,2月が1118万円,3月が1200万円,4月が1217万円と,いずれも毎月売上実績が向上していたことが認められる(甲4ないし6,8)。

      ところで,休車損が生ずるためには,当該車輌の使用必要性と代替車使用の困難性がその前提となるところ,原告が運送会社として搬送貨物の種類や用途に応じて,

      中長距離用大型車として原告車使用の必要性があったことは明らかで,他の大型車の稼働状況からも(甲4ないし6,8)当時,原告車に代わる代替車使用の困難性があったことは認めることができる。

      被告は,原告の売上実績が事故当月も増加していることから,原告車が休車中も他の遊休車又は稼働車が原告車の稼働分を全て補完し,休車損害を生じさせなかったと主張するが,

      売上実績の増加が認められることだけで直ちに休車損が生じなかったとまでは認めることができず,3月は年度末の繁忙期でもあるから(原告車以外の大型車11台はいずれも前月より売上実績が増加している。甲4),

      原告車に休車損が生じていたとしても,他の車輌が本件事故とは関係なく,最大限に稼働して売上増加に寄与した可能性もあり,

      原告車が事故前3ヶ月間はほぼ恒常的に稼働していたこと(甲3),事故当月の売上実績は休車により前後の月に比較し落ち込んだこと(甲4)の外,原告のような規模の運送会社が,繁忙期に3台しかない14トン車の1台を半月間休車させても,事業に支障を来さないような車輌管理をしていたとは認められず(弁論の全趣旨),

      本件事故がなければ,原告車は休車期間中も稼働して一定の収益を上げ得たものと認められ,原告には休車損が生じたと認めるのが相当である。

      しかしながら,休車損の額の算定は,車輌の売上総額から全稼働経費を控除すべきところ,全稼働経費には人件費を含み,人件費について証拠がない本件では休車損を証拠から算出できず,原告主張の甲7も,人件費の控除がないうえ,売上試算の諸経費が他の証拠(甲4ないし6,8)と整合性に欠け,その金額を認めることはできない。

      本件では,証拠だけで具体的な休車損の額を算定することは困難であるが,休車損が生じたこと自体は認められるから,

      民訴法248条により本件証拠調べの結果及び弁論の全趣旨から{仮に,中長距離用大型車12台について,その1月から4月の総売上金額に対する人件費総額を5割と仮定し,その売上粗利益から人件費総額を控除し,1台当たりの1日(期間中の日祭日を除く稼働日数98日)の平均収益を試算すると,大型車12台平均では約1万2600円となる。},

      原告車の1日当たりの休車損は金1万3000円が相当と認められ,原告車の休車日数15日分は金19万5000円であるからその金額を休車損として認めることができる。

      2結論

      以上によれば,原告の休車損は金19万5000円であるが,原告側の過失1割を控除した額は金17万5500円であり,本件損害と相当因果関係にある弁護士費用は金1万7000円が相当であるから,

      原告の請求は金19万2500円の限度で理由があり,その余は理由がないから棄却することとし,訴状送達の日の翌日が平成17年7月29日であることは記録上明らかであるから,主文のとおり判決する。

  • 自動車損害賠償保障法16条1項に基づいて損害賠償額の支払を請求する訴訟において裁判所が同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることの可否

H18.03.30 最高(一小)判 事件番号 平17(受)1628

  • 判決
    • 保険会社に,支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって,支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎ
      ないものというべきである

      「そうすると,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟で支払を命じられる額が異なることがあるが,

      保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には,公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から,保険会社に対して支払基準に従って支払うことを義務付けることに合理性があるのに対し,

      訴訟においては,当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから,上記のように額に違いがあるとしても,そのことが不合理であるとはいえない。

  • 自家用自動車総合保険契約の記名被保険者の子が胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じその結果後遺障害が残存した場合における同契約の無保険車傷害条項に基づく保険金請求の可否

H18.03.28 最高(三小)判 事件番号 平17(受)1751

  • 判決
    • 民法721条により,胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみなされるから,胎児である間に受けた不法行為によって出生後に傷害が生じ,後遺障害が残存した場合には,それらによる損害については,加害者に対して損害賠償請求をすることができると解される。

      前記事実関係によれば,被上告人X2には,胎児である間に発生した本件事故により,出生後に本件傷害等が生じたのであるから,被上告人らは,本件傷害等による損害について,加害者に対して損害賠償請求をすることができるものと解される。

      また,前記の本件約款の定めによると,無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金は,法律上損害賠償の請求権があるが,相手自動車が無保険自動車であって,

      十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって,賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有するものというべきであるから,

      本件保険契約は,賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金によるてん補の対象となる(ただし,免責事由があるときはてん補されない。)との意思で締結されたものと解するのが相当である。

      そして,被上告人X2は,本件保険契約の記名被保険者の子であり,上記のとおり,被上告人らは,本件傷害等による損害について,加害者に対して損害賠償請求をすることができるのであるから,

      被上告人らは,本件傷害等による損害について,記名被保険者の同居の親族(前記1(4)イ(ウ))に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして,本件約款の無保険車傷害条項に基づく保険金を請求できると解するのが相当である。

      したがって,本件傷害等による損害について,被上告人らは,本件約款の無保険車傷害条項に基づいて保険金の請求をすることができると解した原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

H18.02.14 岡山地判 事件番号 平15(ワ)1058

  • 判決
    • 3 自賠法3条但書による免責
      (一) 運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
      (1) C警察官は,前示認定事実のとおり,あえて道路交通法に違反して,類型的にみて交通事故が発生する可能性の高い方法で本件パトカーを本件事故現場に停止させたのであるから,

      本件バイクの運転者が本件パトカーの存在に気付くのが遅れるなどの事情によっては本件事故が発生することがあり得ることを予見できたというべきであり,かつ,本件バイクの動静に注視し,本件バイクが本件三叉路を通過した時点で速やかに,赤色回転灯を点灯させることによって交通事故を未然に防止することも可能であったから,本件事故の回避可能性もあったというべきである。

      しかるに,C警察官は,本件事故現場が暗くて前方の見通しが十分ではない状況下で,本件パトカーの前照灯の明かり及びその反射光のみで,本件バイクが本件パトカーの存在に気付いて対向車線に避けるなどの回避措置をとるであろうと漫然と考え,

      本件バイクが本件三叉路を通過しても,何らの警告措置も講じなかった点で,本件パトカーの運行に関する注意義務違反があることは否めない。

      (2) 被告県は,本件停止措置から生じる損害発生の危険性及びそれにより侵害されるであろうEらの利益の要保護性よりも,C警察官に事前に赤色回転灯を点灯させるなどの行為義務を課すことによって犠牲にされる利益の方が上回るといえるので,C警察官に過失はないと主張する。

      しかし,本件停止措置の危険性は前示のとおり高いものであり,それによって,侵害されるであろうEらの生命・身体に関する利益の要保護性は,交通法規に違反したことを斟酌しても,相当程度高いものであり,

      他方で,C警察官に本件バイクが本件三叉路を通過した時点で速やかに,赤色回転灯を点灯すべき注意義務を課しても本件バイクが逃走する可能性・容易性の程度は本件停止措置の場合とほとんど変わらないのでこれにより犠牲を受ける利益は大きくないから,C警察官に上記手段をとるべき注意義務を課すことに支障はなく,被告県の上記主張は採用できない。

      (二) したがって,被告県は,自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったとまでは認め難いから,自賠法3条但書による免責は認められない。

      4 そうすると,被告県は,自賠法3条による損害賠償責任を免れない。

      四 過失相殺

      1 過失相殺の方法

      複数加害者と被害者との間における過失相殺の方法には,

      ①各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺するという方法と,

      ②加害者の一部に対する関係で被害者に過失相殺事由がある場合には他の加害者との関係でも共通の割合により過失相殺をするという方法〔つまり,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定して,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について加害者らが連帯責任を負う方法〕が考えられる。

      本件においては,二者の過失が競合したことにより一つの交通事故が発生したというものであるが,他方で,被害者たるEは,被告Aの運転する本件バイクに同乗して,ときに自ら本件バイクを運転して,被告Aと行動を共にしてきたものであり,被告Aと特別な関係にあるといえ,過失の内容も被告Aのそれとほとんど共通するものであり,被告Aの過失を抜きにしてはEの絶対的過失割合を定めることができないものである。

      したがって,本件においては,絶対的過失割合を認定することは困難であり,絶対的過失割合による過失相殺の方法は相当ではなく,むしろ,各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺するという方法が本件事案の実態に即しており,それによることが相当であると解される。

      2 相対的過失割合

      (一) Eと被告Aとの間

      E及び被告Aは,互いに道路交通法等に違反する行為を認識・認容していたものであり,パトカーを発見した際には,何らかの方法により,場合によっては交通法規に違反してでも逃走することを黙示的に承認していたと考えられ,これらの点では両者の過失は等価である。

      Eは,自らの意思で本件バイクに同乗したものであり,被告Aによる危険な運転をも受容し,かつ,自らもヘルメットを着用せず,これにより死亡結果発生の可能性を高めたことなどに鑑みると,好意同乗の点を含めて総合し,Eと被告Aの過失割合を3対7と認めて過失相殺するのが相当である。

      (二) EとC警察官との間

      C警察官には,道路交通法等違反の容疑者を停止させるべき職務上の義務や必要性があったとはいえるが,道路交通法に違反して,類型的に交通事故が発生する可能性の高い方法で本件パトカーを停止させながら,交通事故を防止するために十分な措置をとらなかったため,被告Aの過失と相俟って本件事故を発生させたものである。

      Eは,被告Aの交通法規に違反する事実を認識・認容して本件バイクに同乗し,2度に亘ってパトカーから制止され,追尾されたにもかかわらず,非を顧みず,被告Aとともに,住民等の迷惑を考慮しない自己中心的な快楽目的で,さらに爆音走行など交通法規に違反する運転を継続していたものであって,C警察官による強制にわたらない範囲での停止措置を受忍しなければならない事態を自らの意思で招いている。

      しかも,Eは,具体的な逃走方法まで被告Aと合意していなかったとしても,パトカーを発見した場合には,何らかの方法により,場合によっては交通法規に違反してでも逃走することを黙示的に承認していたものというべく,

      パトカーから逃走する際には交通事故が起こり得ることを認識し,その危険性をある程度は受容していたと認めざるを得ない上,ヘルメットを着用しなかった過失により死亡結果発生の可能性を高めていること,本件事故の原因は専ら被告Aによる脇見及びスピード違反の加速運転という危険行為に基づくものであること等に鑑みると,EとC警察官の過失割合は,9対1と認めるのが相当である。

H17.12.14 さいたま地判 事件番号 平13(ワ)1802

  • 判決
    • 第5 当裁判所の判断

      1 被告Aは,平成5年9月25日から平成9年9月13日の約4年間に第1ないし第3の各事故に遭い,本件第1ないし第3 の各傷害を受けたとして,平成5年9月25日から平成11年2月27日までの期間,H病院及びG整形外科病院に連続して  入通院したことは前記のとおりである。

      そして,被告Aは,上記両病院での主治医であった被告G医師から,

      ①本件第1傷害については,「外傷性頸椎症,頭部打撲,両上肢打撲,両上肢擦過傷」,次いで「頸椎捻挫,腰椎捻挫,外傷性腰椎椎間板ヘルニア」の診断を受けて本件第1入通院をし,平成6年6月30日に本件第1治癒したが,「頸部及び上肢の疼痛,しびれ等」の神経症状の本件第1後遺障害が残存したとの診断を受けたこと,

      ②本件第2傷害については,当初「頸椎捻挫,腰椎捻挫,びらん性胃炎」,次いで「外傷性腰椎椎間内関節症,外傷性頸椎症,左腕神経引抜損傷,外傷性肩関節周囲炎」,さらにその後「外傷性頸椎症,外傷性両膝関節症,外傷性腰椎椎間関節内関節症,左腕神経引抜損傷,外傷性神経根性腰椎症」の診断を受けて本件第2入通院をしたこと,

      ③本件第3傷害については,当初「外傷性頸椎症 外傷性腰椎症」,次いで「外傷性頸椎症,外傷性肩板損傷,外傷に伴う目眩,頭痛,左上肢振戦,左腕神経引抜損傷,外傷性神経根性腰椎症,外傷性両膝関節症,外傷性腰椎椎間内関節症」の診断を受けて本件第3入通院し,

      平成11年2月27日に本件第3治癒したが,「歩行も介助具がなければ歩行困難の状態,上下肢筋力低下著明(特に左大腿周囲の筋萎縮著明)」との症状の本件第3後遺障害が残存したとの診断を受けたことは前記のとおりである。

      2(1) そして,証拠(甲6,同37,同38,同49,丙7)及び弁論の全趣旨によれば,被告Aは,埼玉県知事から平成9  年12月には身障者3級の認定を受け,さらに平成11年3月18日には,同2級(要介護,杖なしでは歩行できない状態)の認定を受けたこと,被告Aは,平成11年2月16日等に行われた原告あいおい損保の係員との面談の際には,左足に装具を付けて現れ,その症状から就労は出来ないと報告したこと,

      また,被告Aは,平成12年4月にした自算会に対する本件後遺障害異議申立においても,「筋力の低下から左足の第3,4,5足趾が動かない。装具や手摺りがないと階段の昇降ができない。缶ジュースやペットボトルの蓋が開けられない。座っていられない。物を持っていて知らないうちに落としたり細かい作業や細かい物を持つのが困難である。」等の障害が残存して十分な動作が出来ない等と訴えていたこと,

      原告あいおい損保らによって実施された医療調査にあっては,被告G医師から,「第3事故により症状的には第2事故の治療成果が80パーセントまで達せられていたのに,20パーセント増悪して60パーセントの状態に戻ってしまった。」,「就労については2度目の受傷により,就労復帰が困難な状態になっており,見込みは立てられない。」との説明・回答がされていたこと,

      さらに,原告あいおい損保によって平成12年2月18日ころされた被告G医師に対する弁護士照会においては,「被告Aの症状は,階段の昇降時及び動作時,すべてにおいてコルセットがなければ不可能。未装着の場合移動不可能な状態である。

      筋力低下は歩行障害から歩行困難へ変わっている。常に腰から左足趾のつま先までのしびれと痛みが酷い。生活環境を変えないと,普通の生活が送れない。」等と診断されるとされていたことが認められる。

      (2)ところが証拠(甲5ないし7,同18,同36,同37,同41の1ないし5,同42の1ないし5,同43の1ないし9,同45ないし47,同49,同50の1ないし5,乙3,同4の1,証人N,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,自算会は,平成12年7月5日,被告Aの第3事故についての本件第3後遺障害診断書に基づく後遺障害認定申請については,「外傷に伴う自覚症状の両上肢・下肢の知覚異常・疼痛・運動制限・筋力低下・持続的な頸部及び腰部痛,体幹においても知覚障害あり等の診断については,提出の医証・画像等の書証から,頸部のレントゲン画像では,頸椎には異常所見は認められず,MRI画像上,脊髄等への圧迫所見も認められない。

      また,画像上,事故前から第3事故に至る経時的推移に伴っての異常変化の所見も捉えられない。

      医証上の筋力,筋萎縮,反射軽度低下,知覚障害等の神経学的所見においても経時的な症状悪化を示す所見はない。」との医学的理由から非該当とされ,さらに二度の本件後遺障害異議申立もいずれも棄却されたこと,被告G医師の被告Aの前記本件第1ないし第3の各傷害についての診断に際しては,被告Aには客観的 症状が殆ど認められなかったので,それを被告Aのほぼ自訴のみに依拠して独自の見解に基づく傷病名を診断として付したこと,また,専門医が現時点で検討しても,被告Aの自訴する症状に符合ないしそれを推測させるような客観的所見は,第1ないし第3の各事故を通じて本件カルテ上一切発見できないこと,そして,被告Aは,平成12年7月28日,車輌運搬用のトラックを単独で運転し,そのトラックに軽自動車を運転して載せたり,同トラックを運転して目的地に赴いて,重量のあるタイヤ止めの木材を取り外したり,積載していた軽自動車をトラックから細い渡り板の上をバックで運転して降ろすなどの本件労働を円滑な動作で行ったこと,しかも,特にその際には,被告Aは,障害があるとされている患側の片方の足に全体重をかけたり,方向転換をするときも患側下肢を踏ん張ったりする動作も見られたり,キャスターのついた板の上に仰向けに横たわった姿勢で自動車の車体の下に潜り込んで作業をした後,その仰向けの姿勢から跳ぶよ
      うに元気よく立ち上がったりする動作も見られたこと,そして,そのころ杖や介助具もなしで普通に歩行していたもので,健常者と全く変わらない生活をしていたことが認められる(なお,被 告Aの様子は,調査会社によってビデオに撮影されており,上記動作等を内容とする本件Aの行動状況は明らかである。)。

      なお,被告G医師においては,「被告Aは,損害保険会社の調査において,ビデオの撮影がなされた平成12年7月28日には,G整形外科病院において,薬剤の局所注射,腰部硬膜外ブロック,点滴の治療を受けたので,その治療の効果からビデオで撮影されているような歩行や動作が可能であったものである。」等と主張し,被告G医師も同旨の供述をその本人尋問においてし
      ているが,その供述内容は医学上非合理の点が多いこと,また,上記ビデオから見られる被告Aの動作が極めて機敏,かつ力強いもので到底,被告G医師の診断にあるような障害をもつ者(その痛みを麻酔注射等の痛み止めで防いでいる者)の動作とは見られないことからして,被告G医師の上記供述は全く措信できない。

      (3) したがって,被告Aの少なくとも第2,第3事故における本件第2,第3の各傷害についての症状に関する被告G医師に対する自訴,又は,自算会,身体障害者の認定を受ける等のための被告Aの上記症状についての申告内容は,全くの虚偽であったもので,それらにおいて被告Aが主張している各傷害は,全くの詐病(以下「本件詐病」という。)であったと認めるのが相当であ
      る。

      そして,証拠(甲18,同41の1ないし6,同42の1ないし5,同45,同46,乙4の1,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,複数の専門医師が本件カルテを検討したところ,本件第1傷害によって残存した障害の部位が本件カルテ上不明であって,医学上その障害の存在自体は認定出来ないし,被告Aは第2事故においては受傷していない可能性が最も高いと見られること,さらに第3事故においては,仮に被告Aが傷害を負ったとしても,それは極めて軽微な「頸椎捻挫」,「腰椎捻挫」を超えないもので,短期間で後遺障害を残さず治癒する程度のものであったとしか見られないことが認められるのであるから,少なくとも本件第2,第3の各傷害における被告Aの自訴は虚偽のもので,本件詐病であったとする上記認定は,同医学的検討とも符合するもの
      である。

      なお,証拠(甲14,同27,丁5,同6,同8)によれば,被告Aを平成9年11月22日以降に診察した訴外K病院の訴外L医師は,被告Aの自訴からその傷病名を「外傷性神経根性腰椎症,外傷性頸髄症」と診断し,「確実に治癒することができる治療法も見あたらない。装具なしでは歩行不可,身障者2級に相当するかも?」との意見を述べており,また,M病院の医師も被
      告Aに「両上下肢とも筋力の低下,常に震えがあり,歩行にびっこをひいている。

      足趾屈曲不能,巧緻運動障害,知覚低下・障害がある。」との症状があるとして,その傷病名を「頸髄損傷」であるとの診断をしていることが認められるが,上記両病院の医師が診断した被告Aの症状は,前記のとおり同被告の真の症状ではないことは前記本件Aの行為から明らかであるので,その傷病名の診断及び後遺障害に関する意見等を以てしても,本件詐病である旨の判断は左右されない。

      (4) 以上によれば,被告Aの,「第2事故によって1842万4095円の損害を被ったので,それに対する既払金額を控  除しても残存損害額は450万円(内50万円は弁護士費用)を下回らないので,被告D及び被告Eに対しては同額の自賠   法3条所定ないし民法709条に基づく損害賠償請求権を有している。また,第3事故によっても1246万7660円の損害を被ったので,それに対する既払額を控除しても,その残存損害額は350万円(内50万円は弁護士費用)は下回らなので,被告B及び被告Cに対しても,同額の自賠法3条所定ないし民法709条に基づく損害賠償請求権を有してい     る。」と
      の第1事件における主張は認められない。

      3(1) 被告G医師にあっては,本件第1ないし第3の各事故において負ったとする被告Aの本件第1ないし第3傷害につき,H病院及びG整形外科病院において傷病名を付してその治療に当り,「(当事者間に争いがない,ないしは,掲記の証拠により明らかな事実)2の(1)ないし(3),3の(2)ないし(4),4の(2)
      ないし(4)」に記載のとおり,入通院した被告Aにつきその傷病名を診断して治療に当たったこと,本件第1及び第3傷害については,それぞれ本件第1,第3の各後遺障害が残存したとする各後遺障害診断をしたこと,そして,本件第1ないし第3傷害については,いずれもレントゲン,MRI等の画像やその他の検査等においては客観的所見はなかったこと,しかし,被告G医師は被告Aの自訴に基づいて上記傷病名を付したものであること,被告Aには本第3後遺障害が残存したと診断して,その診断を示す本件カルテや診断書等を作成したことは前記のとおりである。

      ところが,被告Aの上記自訴は本件詐病であったことも前記とおりである。

      (2) 被告G医師は,「被告Aの自訴が真実は詐病であったとしても,被告G医師は,それに気付かず被告Aの訴えに対して,それを信じて痛みを和らげる治療を中心に診療に当たってきたもので,医師の診療として過失はない。」旨主張するが,被告G医師において被告Aに存したものと診断したその症状,それに対する傷病名,その治療内容等については,証拠(甲3,同4,同8
      の1ないし3,同10,同11,同15,同16,同18,同21,同22,同23,同26,同29,同30,同31,同33,同34,同35,同38,同41の1ないし6,同42の1ないし5,同45ないし48,乙4の1,同5ないし8,同9の1ないし3,丙5の1ないし7,同6)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり,医学上極めて不合理,不自然あるいは明確な誤りがあることが認められる。

      ① 本件第1ないし第3の傷害を通してみると,被告Aは被告G医師の治療を受けながらも,その経過と共にそれ以前に本件カルテ上存在しなかった症状を表す傷病名が次々に増加すると共に,その症状も悪化,重症化したものとなったとする旨の診断がなされており,被告Aの症状は,医学上通常有り得ない経過を示している。

      それに対して,被告G医師は,治療を続けても一向に軽快しない被告Aの自訴は,通常の医師であれば疑って当然であるのに,しかるべき検査,治療をしないで,漫然と点滴や痛み止めのみのブロック注射や理学療法を継続していただけであった。

      ② 被告G医師の付した上記傷病名のその殆どは,医学的には認められていないもので誤っており,故意に「外傷性」を付したのでなければ,被告G医師の医師としての医学知識を疑うに足りるものである。

      その診断自体についての医学的誤り,ないし疑問点等については次のとおりである。

      (ア) 「頸椎症」,「腰椎症」は,加齢による変成が原因であって外傷性ではないので,それを「外傷性頸椎症」,「外傷性腰椎症」とした被告G医師の傷病名は誤りである。

      「神経根性腰椎症」,「両膝関節症」,「腰椎間(内)関節 症」もいずれも疾病であって,それを外傷性として「外傷性頸椎症」,「外傷性腰椎症」とするのは誤りであり,医学的には意
      味不明である。

      (イ) 「外傷性肩板損傷」は「外傷性肩腱板損傷」が正しい傷病名であるが,本件カルテを精査してもその診断に必須検査がされておらず,診断根拠不明である。「外傷性腰椎椎間内関節症」との傷病名は,間違いであって,医学的には「腰椎椎間関節症」が正しい。

      (ウ) 「左上肢振戦」「吐き気,めまい」等は症状であって傷病名ではない。そして,被告Aに対して診断された「頸椎症」や「肩腱板損傷」では,その症状として「振戦」は生じない。

      振戦(上肢)の原因となり得る「外傷性脊椎症」は,強力な外力で脊椎骨折,脱臼の骨傷,椎間板損傷が発生し,その後数年の経過で損傷部位に限局性の変形性脊椎症所見が発生してきた場合の中枢神経神経系(脊髄等)の病変による疾病であるが,本件第1ないし第3事故において被告Aはそのような外力を受けて負傷したことはないことは本件カルテ上明らかである。

      また,脊椎症の場合には,腱反射は亢進しなければならないの
      に,反対にそれが「低下」したとされている。

      (エ)「左腕神経引抜損傷」は,「左腕神経叢損傷ないし左腕神経根引抜損傷」が医学的に正しい傷病名であり,同傷害があるときは,事故当初から左腕の運動麻痺が見られなければならないが,被告Aについては,事故後,左腕筋力は正常であったのに,その後突然重篤な傷病名が現れたのは医学常識上有り得ないことである。また,同傷害が存したときはそれに見合う後遺障害も存在しなければならないが,それがない。

      (オ)「肩関節周囲炎」は,いわゆる五十肩で外傷性ではないので「外傷性肩関節周囲炎」というような傷病名は医学上存在しないし,仮に五十肩が発症していたとしても,それは事故後別個の経緯で発生したものであることは明白であるが,被告Aの年齢からは考え難い。

      (カ)「頸椎性脊髄症」とは,「頸椎症性脊髄症」が医学的に正しい傷病名であり,加齢による退行変性が原因であって,外傷により生ずるものではない。

      被告Aにそれが存した旨の診断根拠は本件カルテ上にはない。むしろ,「脊髄症」の場合の症状は四肢の腱反射は「亢進」しなければならないのに,診断は「反射は全体的に軽度低下気味」とされており,認定された症状と診断が矛盾している。

      (キ) 被告Aには,頸部以下の体幹,四肢全体に及ぶ感覚障害,知覚障害があると診断されているが,これは「頸髄」病変がないと見られない症状であり,被告G医師の診断傷病名からは説明できない。そして,感覚障害,知覚障害が症状として発生する可能性がある不全型頸髄損傷であれば,損傷部位下の反射は亢進するが,被告Aに対する診断では前記のとおり「全体的に軽度低下気味」とされていて矛盾している。

      また,第2頸髄以下の知覚支配領域全てに感覚障害が生じるような場合であれば,受傷時に呼吸停止か生じるようなことが多いのに,その通常の機序とも矛盾しているもので,不自然極まりない。

      (ク) 上下肢筋力低下著明の診断があるが,数値的にも筋力低下は著明ではない。したがって,被告Aは歩行可能であり,「介助具がないと歩行困難」との診断は矛盾している。

      また,被告Aに対しては,両松葉杖の貸し出しがされているが,松葉杖を必要とするような下肢筋力の低下は被告Aにはない。

      ③ 被告G医師の被告Aに対する治療経過(本件カルテの症状経過欄には「交通事故にて受傷」,「外来にて保存的に治療を行う」という2種類のゴム印が基本的には繰り返し押されているだけで,検査結果,症状経過等の記載がない。)についても,次のような医学上の疑問がある。

      (ア)被告Aは,平成6年1月29日から「左肘から先が痛い,痺れる。」との症状を訴えたが,何ら客観的症状は発見出来なかった。それであるのに被告G医師は,肩甲上神経ブロック,星状神経ブロック,脊椎椎間関節注射,腰部硬膜外ブロック等の神経ブロックと腔内注射を開始し,以降頻繁に行っていた。

      平成6年1月から平成11年2月末までの間にその痛み止めの注射回数は合計717回(乙6,内訳,星状神経ブロック242
      回,肩甲上神経ブロック162回,腰部硬膜外ブロック46回等)に及んだ。ただし,本件カルテ上には,ブロック注射の目的,効果についての記載はされていない。

      神経ブロック注射は,それぞれに適応があり,なぜこのような各種ブロック注射を行う必要があったのか不明である。そして,通常は,神経ブロック注射は週一回で合計数回行うが,それで効果があるものである。効果がないものは中止するのが原則である。

      (イ) 客観的所見がない程度の頸椎,腰椎捻挫は一般的には3ないし6か月間程度で軽快するのが普通である。被告Aの自訴は,それと大幅に異なったのであるから,医師としては,当然,それに見合った検査,治療がなされるべきであるのに,被告G医師においては,前記のとおり漫然と点滴や痛み止めのみのブロック注射や理学療法を漫然と継続していただけであった。

      被告Aに対しては,患者のいわゆる不定愁訴である自訴にのみしたがった対症療法のみがなされ,系統的な治療は殆どされていない。

      すなわち,被告G医師においては,被告Aに客観的,他覚的所見はないにも拘わらず,奇異・不自然な(当初存在しなかった症状が,治療を受けた相当期間後に突然出現したことになっている。

      しかも本来外傷性ではない傷病に被告Aの症状がいかにも本件各事故と関連があるように,故意に「外傷性」が付加されている。),しかも見かけ上重篤な傷害と診断し,不定愁訴のみを理由として各種ブロック注射を延々と行ったもので,医学的根拠に基づいた治療とはみられないものである。

      なお,仮に,被告Aに真実腰痛が存したとしても,それは本件カルテから加齢変性による椎間板ヘルニアが存したのではないかと疑われるので(済生会栗橋病院の診断参照),それによるものではないかと推測されるもので,本件各事故とは関連がない。

      ④ 第1ないし第3の各事故の各態様は軽微なものであって,特に第2事故は被告Aに治療を要するような傷害を生じさせるものでないことは明らかである。

      第1事故直後H病院で最初に被告Aを診た被告G医師と別の医師の所見によれば,被告Aの傷害は特別な治療は必要ない極めて軽い挫傷,打撲程度であって,短期間で退院は可能とされていたもので,その入院が長引いたのは,第1事故とは関係ない背部母斑の手術のためであった。

      本件第3傷害の症状と診断されているものは,本件カルテ上は第2事故の症状と殆ど同じで,それが長引いていると見られるもので,新たに第3事故によって被ったという確実な症状なり,兆候は見られない。

      第3事故では負傷しなかった可能性が高い。しかも,その第2事故も被告Aの当初の自訴は腰部,背部痛であるが程度は軽いものであって,客観的,他覚的所見はなく,写真上起因した所見ないもので,特別な治療の必要もないものであったと見られるものである。

      (3)① 以上(1),(2)において認定した事実及び判断によれば,被告G医師は,少なくとも,被告Aの第2,第3事故における本件第2,第3の各傷害に関する症状の自訴については,いずれもレントゲン,MRI等の画像やその他の検査等(なお,被告Aが訴える一部症状については,適性な検査を欠いたものもあった。)に客観的所見はなく,また,被告Aにはその既往症を増悪させる新たな客観的な事実も認められなかったのであるから,医師として適性な診断をする意思があれば,同自訴が医学的には矛盾ないし不合理なもので,有り得ない症状であることから容易に詐病であることに気付くことができたのに,被告G医師においては,それを全く意に介さずに,医学的にみて極めて問題のある一連の診断・病態評価・治療行為をし,かつ客観的実態に反する診断書を作成したものである。

      なお,交通事故の被害者から,当初,頸椎捻挫,腰椎捻挫等を疑わせる自訴があった場合,それが医学上からすると疑わしい場合にも,その旨の診断を一応してその対処治療をして経過観察等をすることは,その後,客観的にはその診断が誤っていたとしても医師として非難されることはない。

      しかしながら,その後その患者の自訴が交通事故に関連して賠償金等の取得を目的とした詐病ないし少なくともそれに関連する虞があると見られる虚偽のものであったことが判明した場合(又は,医師として極容易にこれを知り得た場合)には,その診断を訂正し,少なくとも知った時点で直ちに治療を終了すべきであるのに,被告G医師にあっては,当然,被告Aの詐病が容易に疑われる段階に至って後も,むしろそれを故意に隠蔽して,ないしはさらにそれに乗じて治療費等を保険会社等から支払を受ける目的で,被告Aの虚偽の症状に見合う不合理な傷病名を付して治療を継続したのではないかとの疑いが,本件では推測されるものである。

      したがって,被告G医師は,本件詐病につき被告Aとその診療の当初からの共同不法行為者であると判断するのが,本件では相当である(以下「本件虚偽診療行為」という。)。

      ② 被告G医師及び被告医療法人Fは,「原告損保会社らは,いずれも保険事故の有無・程度並びに保険金支払に当たっての査定を専門にしている以上,医師の診断内容に疑問があるのであれば,その調査を行うこと等は当然であるところ,それを懈怠して漫然とその保険金の支払をしたのであるから,原告損保会社らの損害を算定するに際しては,過失相殺がなされるべきである。」旨主張するが,本件証拠上両原告損保会社が,被告G医師の診断,治療行為の相当性を鵜呑みにして,被告Aないし被告病院等に治療費等を保険契約に基づいて安易に支払って,その損害額をことさらに拡大させたような事情は窺うことはできないので,被告G医師及び被告医療法人Fの上記主張は採用できない。

      4(1) 原告エース損保は,被告D車の所有者で自賠法3条所定の運行供用者である被告Eとの間において,本件エース損保保険を締結していたこと,原告エース損保は,同保険契約に基づいて第2事故に関連して被告A他に合計1264万0144円を支払ったこと,原告あいおい損保は,被告C車の自賠法3条所定の運行供用者である被告Bとの間において,本件あいおい損保保険を締
      結していたこと,原告あいおい損保は,同保険契約に基づいて第3事故に関連して被告A他に対し合計1183万6167円を支払ったこと,そして,同原告においては被告Aに対する調査の費用として68万2000円(合計1251万8167円)を要したことは前記のとおりである。

      そして,原告保険会社らの上記金員の各出捐は,被告Aの本件詐病による金員の詐取である不法行為と相当因果関係にある各損害と認められ,また,被告G医師の本件虚偽診療行為とも相当因果関係にある各損害と認められる(なお,その各出捐と各損害の間の相当因果関係を疑わせる事情は本件証拠上何ら窺われない。)。

      そして,被告Aと被告G医師の上記各行為はいわゆる客観的関連共同行為として原告保険会社らに対する各共同不法行為を構成すると解される。

      (2) 被告G医師は,H病院に医師として勤務していたが,平成8年4月2日に被告医療法人Fの代表理事としてG整形外科病院を開設したため,同病院を経営すると共に医師として診療に当たっているものであることは前記のとおりであるので,被告医療法人Fは,被告G医師が平成8年4月2日以降に行った本件虚偽診療行為によって両原告保険会社が被った各損害については,民法4
      4条に従ってその賠償の責任があることは明らかである。

      しかるところ,証拠(甲39の1ないし5,同40,乙1の1ないし28)及び弁論の全趣旨によれば,原告エース損保が第2事故に関連して支払った金額(合計1264万0144円)のうち少なくとも合計552万7730円(乙2の1ないし13)については,平成8年4月2日以前(被告G医師がH病院の勤務医師として本件虚偽診療に当たった期間)に支払ったものであ
      ることが認めらるので,被告医療法人Fがその責任を負うべき金額は,残額の711万2414円を上回らないものと認められる。

      5 以上によれば,被告Aの被告D,被告E,被告B及び被告Cに対する,第1事件請求はいずれも理由がないので棄却し,原告あいおい損保の被告A,被告G医師及び被告医療法人Fに対する第2事件請求は理由があるので認容することとし,さらに,原告エース損保の被告A及び被告G医師に対する第3事件請求は全部理由があるので全額認容することとするが,原告エース損保の被告医療 法人Fに対する第3事件請求については,そのうち金711万2414円及びこれに対する本訴状送達の日の後である平成14年5月26日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,それを超える請求部分は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する

  • 公立病院における診療に関する債権の消滅時効期間

H17.11.21 最高(二小)判 事件番号 平17(受)721

  • 判決
    • 【要旨】公立病院において行われる診療は,私立病院において行われる診療と本質的な差異はなく,その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべきであるから,公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は,地方自治法236条1項所定の5年ではなく,民法170条1号により3年と解すべきである。

  •  普通地方公共団体の財産の適正な対価によらない譲渡又は貸付けに係る地方自治法237条2項の議会の議決につき適正な対価によらないものであることを前提としてされることの要否 H17.11.17 最高(一小)判 事件番号 平15(行ヒ)231
  • 判決
    • このような同法237条2項等の規定の趣旨にかんがみれば,同項の議会の議決があったというためには,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める
      趣旨の議決がされたことを要するというべきである 

H17.06.23 千葉地判 事件番号 平11(ワ)2860

  • 判決
    • 1 争点(1)(本件交通事故の具体的な態様)について
      (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

      ア 本件現場は,照明灯が設置されているため夜間でも明るく,本線は平坦な直線道路であり,流入路もほぼ直線の緩やかな下り勾配の道路であり,いずれの道路も前方には視界を妨げる障害物がないため,本線では少なくとも37メートル手前から,流入路では少なくとも40メートル手前から,それぞれ視認可能であり,見通しのよい道路であった。

      イ 被告Fは,本件現場を通勤経路として頻繁に通行しており,流入路から本線に流入した後,本件現場の先で右折するために早く右側車線に入る必要があったことから,ゼブラゾーンを横切って本線に流入し,

      また,道路の高低差やガードレール等のため流入路からは本線を走行してくる車両の有無が見えにくかったことから,本線に流入しながら右後方に顔を向けて車両の有無を確認して通行していた。

      被告Fは,本件交通事故当日,前記のとおり飲酒した上,時速約50キロメートルの速度で流入路をF車を運転して走行し,F車の前後を走行する車両がいなかったことから流入路の終わる手前付近で進行方向から目を離し,

      右後方に顔を向けて本線を走ってくる車両の有無を確認しながら,ゼブラゾーン部分を横切って本線に流入しようとしたところ,突然,バシッという大きな音がしたため,正面を見ると,フロントガラスの右端部分が細かくひび割れ,右側を見るとドアミラーが脱落してなくなっていた。

      被告Fは,直感的に人を跳ねてけがを負わせたと思ったが,気が動転するとともに,飲酒運転が発覚するのをおそれ,Dを救助することなく本件現場から逃走した。

      ウ 歩行者が車両前面に衝突し,車両が衝突時に急ブレーキをかけた場合,歩行者が,衝突されてから,空中に放出されて路面に着地し,路面を滑走して停止するまでに移動した距離(転倒距離)は,以下の各式で計算できる。

      車両の衝突速度(V)と歩行者の放出速度(v)は同一ではなく,減速率は70ないし87パーセントである。これらによれば,時速50キロメートル(秒速13.9メートル)の車両が歩行者に衝突した場合の歩行者の転倒距離は,約9.5ないし16.2メートルである。

      もっとも,転倒距離は歩行者と衝突車両の衝突態様等により変化し,理論的には,衝突車両が急ブレーキをかけない場合には長くなり,歩行者が衝突車両の正面ではなく,ななめに衝突した場合には短くなり,歩行者がボンネット上に跳ね上げられる場合には長くなる。

      式 転倒距離=0.1v2(v:歩行者の放出速度)転倒距離=0.0636V2+0.285V

      (V:車両の衝突速度)

      エ Iは,本線左側車線を車両で走行中,交差道路を越えた地点で,ゼブラゾーンの終了地点から約8メートル進行方向に進んだ別紙図面2のjの地点に人のようなものが倒れているのを発見したため,左側の車線に車線変更し,Dが頭を中央分離帯の方向に向けてくの字になって倒れているのを確認した。

      Iは,車を流入路の左端に停車して直ちに119番通報し,Jは,車両に積載していた発煙筒を持ち出してこれをDの転倒地点の5ないし10メートル手前に置いた。数台の車両はDを避けて通行したが,G車はスピードを出したまま直進してきた。

      オ 被告Gは,前記のとおり飲酒した上,本線左側車線を時速約60キロメートルで走行していたところ,Dの転倒地点の約35メートル手前の地点で,前方の本線左側路肩にテールランプが付いた車両が停車しているのを発見し,

      しばらくその車に目を奪われながら走行していたが,再び前方に目を戻したところ,進路前方約22メートルに大きな黒っぽいゴミ袋のような細長い物体が真横に横たわっているのを発見した。

      被告Gは,驚いて大声を出したが,飲酒の影響で反応が鈍っていたこともあり,そのまま直進し,その直後に,横たわっているものが人であることが分かったが,避けることができず,Dの身体に車両前部を衝突させ,車体を乗り上げ,別紙図面2のkの地点までDの身体を引きずった。

      被告Gは,Dにけがを負わせたことは分かったが,気が動転し,飲酒運転が発覚するのをおそれ,Dを救助することなく本件現場から逃走した。

      カ 第1事故後,Dの転倒地点周辺に血は流出していなかったが,第2事故後,Dの転倒地点周辺に大量の血が流出した。

      キ Dは,平成9年3月9日午前0時21分,K医療センターに搬送されたが,既に心肺停止状態にあり,心肺蘇生術が試みられたが奏功せず,同日午前0時32分ころ,死亡が確認された。

      ク 本件現場のDの左右の靴,F車の右ドアミラーの落下位置は,別紙図面2のとおりであった。

      ケ F車には,車両右前部のバンパーからスカート部にかけて,幅22センチメートル,長さ11センチメートルの払拭痕が,ボンネット部及びフェンダー部の右先端から後方にかけて,幅17センチメートル,長さ33センチメートルの払拭痕が残り,

      右タイヤハウス内では泥よけを固定していたネジが1本脱落し,右前フロントガラスピラーは中央部で凹損し,その周辺のフロントガラスが蜘蛛の巣状に破損し,右ドアミラーはそれ自体破損しなかったが,

      本件現場において支持部から脱落し,右前ドアにドアミラーが脱落した際付けられた二条の擦過痕が残ったが,右ドアミラー支持部周辺にはDの身体が接触した形跡はなかった。

      車両のドアミラーには,ドアミラー前方から車体と平行方向に25キロ
      グラム以上の力が加わると変位・脱落し,歩行者に対する衝撃が緩和される衝撃緩和機構がある。

      コ G車は,前部ナンバープレート下部が内側に曲がり,前部バンパーグリルのエアー取入口に取り付けられた羽根が割れ,車底部及びフロントエプロン下部には,幅80センチメートルの払拭痕があり,セルモーター付近,左前輪取付け部分及び泥よけ内部並びに中央フロントフロアーパン付近にそれぞれ血痕が付着し,車両中心部から車両後方にかけて後方に向かう幅約60センチメートルの払拭痕が認められた。

      G車のバンパー下部から地面までの高さは20センチメートルであるが,G車の車底部には多数の部品が取り付けられているため,最低地上高は,エンジン下のセンターメンバーから地上までの高さ15センチメートルである。

      これに対し,Dの胸板の厚さは,22センチメートルであり,Dの上半身がG車の下部に入り込めば,Dの上半身が車両底部によって,押し潰される状況にあった。

      サ Dが,本件交通事故当時着ていた長袖ジャンパーには,右わき部分に1.5ないし4センチメートルの破れ,縦11センチメートル横15センチメートルの擦過跡が,半ズボンには,左後ろの裾部分に長さ7センチメートルの破れが,片方の靴下には長さ13センチメートルの破れがあり,靴は,ひも通し具が破損するなどしていた。

      シ Dの負傷状況は,以下のとおりである。

      (ア) 頭部
      a 後頭部には,表皮剥脱等の外傷,頭皮内部の広範な血腫状の出血があるほか,左側頭骨で左外耳孔から後頭骨中央部に至る頭蓋骨骨折及び右側頭骨で右外耳孔から後方に向かい人字縫合に達する頭蓋骨骨折があり,後頭部の骨折部分から多量の出血があった。

      これらの損傷は,Dの後頭部に激しい打撲が加えられたことにより生じたものと考えられる。

      b また,左右側頭部には表皮剥脱及び皮下出血の外傷,頭皮内面には右頭頂部の出血があったほか,頭蓋底では,左右の側頭骨からトルコ鞍部を通って頭蓋底を横断する骨折及びトルコ鞍部の左前頭蓋窩を横断する骨折があり,周辺の軟部組織は挫滅状となっていた。

      このような頭蓋底を横断する骨折(横骨折)は,頭部が左右方向から強く圧迫された時に見られる特徴的な骨折であることから,これらの損傷は,Dの頭部が左右方向に強く圧迫されたことにより生じたと考えられる。

      c 上記bの頭蓋底骨折は,頭蓋底及び左前頭蓋窩を二分するほど高度の骨折であったため,脳脊髄液がほとんど外部に流出し,頭蓋内に空気が流入する気脳症ないし気頭症となり,致命傷となるものであった。

      d 頭蓋内損傷としては,くも膜下出血,小豆大,大豆大等の脳挫傷があったが,死に至るまでの高度の損傷ではなかった。

      (イ) 胸腹部
      a 胸郭前面では,左側に,第3肋間に相当する左鎖骨内端より下方約11センチメートルの部における胸骨骨折,鎖骨骨折,肩鎖関節脱臼,第2,5,6肋骨骨折があり,これらの損傷の周辺に軽度の出血を伴い,右側では,第1肋骨骨折があり,周辺に出血を伴った。上記左右胸郭前面の肋骨骨折に相当して胸筋内に出血があった。

      胸郭後面では,左側に第3,4肋骨骨折があり,周辺に出血を伴った。

      左胸腔内には約250ミリリットルの,右胸腔内には約70ミリリットルの血液が貯留していた。

      b 胸椎・腰椎には,骨折はなかった。

      c 骨盤骨の恥骨結合は完全に離開し,周辺の軟部組織は軽度の挫滅状を呈して軽度の出血を伴った。この創傷は,骨盤部に前後方向から激しく圧迫されたことにより生じたと考えられる。

      (ウ) 胸腹腔内臓器等

      a 左肺臓は,上葉に,長さ約12センチメートル,深さ約6センチメートルにわたる内部実質の挫滅があり,下葉後面に,長さ約5.5センチメートルの外膜の断裂を伴う上下径約10センチメートル,深さ約8センチメートルにわたる挫滅があった。

      右肺臓は,下葉後面の外膜が上下径約15センチメートル,左右径約5センチメートルにわたり気腫状に腫脹し,深さ約2.5センチメートルにわたる内部実質の挫滅があった。このような高度の両肺挫滅のため,Dは,早急に呼吸不全に陥る状態であった。

      b 左横隔膜は,破裂していた。

      c 上記a及びbの左肺臓を中心とする内臓の損傷及び上記(イ)の胸部創傷は,胸郭のかなり広い範囲で,特に左胸郭に前後方向から激しい圧力が加えられたことにより生じたと考えられる。

      (エ) その他の部位

      ほぼ1直線で結ぶことができる左上腕骨骨折及び挫裂創,左大腿骨骨折及び挫裂創,左顔面挫裂創があった。

      (オ) 死体の生活反応

      a 死体に認められる損傷に,その損傷が生前に生起されたものであると判断しうる所見がある場合,これを損傷の生活反応といい,凝血を伴う出血があることや創口が開くことは生活反応の例である。

      b もっとも,筋肉への血流は豊富である一方,骨近傍の骨膜における血流は少ないから,骨折部の位置に皮下出血や筋肉内出血があるのに,骨折部近傍には出血が見られないか極めて軽度の出血だけが見られることはめずらしくなく,

      また,高度の創傷のため,受傷時に生存していても受傷直後に死亡した場合は,創傷部位に出血があってもごく少ないか出血がほとんど見られないなど創傷に生活反応がほとんど見られないことがある。

      (2)ア Dが,第1事故直前にゼブラゾーン上に佇立していたことは当事者間に争いがないが,その具体的な地点について,原告らは,ゼブラゾーンの開始地点付近である旨主張し,被告Fは,ゼブラゾーンの開始地点から22.2メートル進んだ地点である旨主張するので,以下検討する。

      イ (ア)原告らは,Dが,第1事故後,jの位置より手前の右側車線に転倒していたこと,転倒距離は少なくとも19メートルであるとして,佇立していた地点はゼブラゾーンの開始地点であった旨主張し,Jの回答書,写真撮影報告書,鑑定書には,これに沿う記述がある。

      (イ) しかし,上記回答書及び報告書は,本件交通事故後4年経過した時点で作成されたものであり,正確な位置関係についてJの記憶が曖昧になっていることは否めず,本件交通事故当時本件現場を車両で走行していた当事者であるI及び被告Gが,本件交通事故直後に,本線の左側車線を走行中,前方にDを発見したと供述していることに反すること,

      上記認定の事実によれば,DはF車のドアミラーに衝突しながら路面に落下したということができ,Dの身体は,ドアミラーと一体となって落下するはずであるところ,落下地点がドアミラーと離れているのは不合理であることにかんがみれば,上記陳述書及び報告書はにわかに信用しがたい。

      仮に,第1事故後,Dが原告主張の位置に転倒していたとしても,上記鑑定書の計算は,自動車の衝突速度と歩行者の放出速度を混同して計算した誤りがあるから,これを根拠とする上記原告らの主張は採用できない。

      ウ(ア) 他方,被告Fは,Dは,ゼブラゾーンの開始地点から22.2メートル進んだ地点に立っていた旨主張し,被告F立会いの実況見分調書,被告Fの供述調書には,これに沿う記述が存在する。

      (イ) しかし,被告Fは,Dに衝突した時点で,本線の後方を確認していて,前方を全く見ておらず,その認識を欠いていたものであるから,被告Fの指示した地点が衝突地点であるとは認め難い。

      エ 前記(1)認定のとおり,Dが第1事故直後に転倒していた位置はjの地点であること,時速50キロメートルで走行する車両が歩行者と衝突し,急ブレーキをかけた場合の歩行者の転倒距離は約9.5ないし16.2メートルであること,

      本件では,F車が急ブレーキをかけていないこと,DがF車の右前部に衝突したこと,Dがボンネットに跳ね上げられたことなど転倒距離に変動を来す要素があること,jの地点からゼブラゾーンの終了地点までの距離が約8メートルであり,

      ゼブラゾーンの長さが33.7メートルであることにかんがみれば,DがF車との衝突によりゼブラゾーンの開始地点付近からjまで約25メートル余り飛ばされたということは考え難いから,

      Dが佇立していた地点は,具体的に特定することはできないとしても,少なくともゼブラゾーンの開始地点付近ではなかったというべきである。

      (3)ア 被告Gらは,第2事故では,Dの頭部・胸部が轢過されていない旨主張する。

      イ しかし,Dは,G車と垂直方向に転倒した状態で,G車の下に入り込んだこと,G車の車底部に広範囲に血痕や払拭痕があること,Dの頭蓋骨及び骨盤骨には左右から圧力がかかって生じた創傷があることから,第2事故において頭部から腰部にかけて轢過されたということができ,その際,Dは腹部も当然に押し潰されたということができる。

      ウ よって,上記被告Gらの主張は採用できない。
      (4) 上記(1)ないし(3)で認定した被告F及び被告Gの運転状況,目撃者の目撃内容,本件現場の遺留品の状況,加害車両の損傷状況,Dの受傷内容・部位等の各事実によれば,本件交通事故の事故態様とDの受傷に至る経緯は,以下のとおりであったということができる。

      ア 第1事故

       被告Fは,顔を右後方に向けたまま,ゼブラゾーンを横切って本線に流入したため,F車がゼブラゾーン内に立っていたDに背後から衝突し,Dの左大腿部後面から左臀部にかけた部分をバンパーで直撃し,

      その衝撃でDをボンネット上に跳ね上げ,左腰部を右フェンダー端に接触させ,右フロントピラー中央部分をDの後頭部に激突させ,その際,後頭部骨折の傷害を負わせ,

      その反動でF車の前方ななめ上向きに跳ね上げ,最初の衝突地点の右前方の路面に転倒させ,さらに,DがF車の右側面から路面に落下する際,F車の右ドアミラーをDの左胸部に衝突させた。

      イ 第2事故

      Dが,第1事故によって路面に投げ出され,本線左側車線に頭を中央分離帯の方向に向けて横臥していたところ,IらがDを発見し,Jが発煙筒を置き,数台の後続車はDを避けて通過したが,

      被告Gはこれに気付かず,G車前部ナンバープレート付近をDに衝突させ,そのままG車をDの身体に乗り上げ,Dの身体を車両底部と道路に挟んだ状態で引きずり,その際,Dの頭部から腰部にかけて押し潰し,頭部横骨折,骨盤骨の恥骨結合離開等の傷害を負わせた。

      ウ Dの死因

      Dは,本件交通事故により,上記各創傷のほか,左胸部を中心とする肋骨骨折,両肺挫滅,左顔面挫創,左肩挫創,左大腿部  骨折等の傷害を負い,両肺の損傷が高度であったため,すぐに呼吸不全に陥り,これが直接の死因となって死亡した。

      2 争点(2)(第2事故とDの死亡との間の相当因果関係の有無)について
      (1) 上記1認定の事故態様に照らせば,Dは,本件交通事故の際,①第1事故において,F車のドアミラーに左胸部を衝突させ,②F車に跳ね飛ばされて路面に転落し,③第2事故において,G車底部により全身を押し潰された過程で,胸部に強度の衝撃を受けたということができるものの,

      致命傷となった左胸部を中心とする肺挫滅が,上記①ないし③のいずれによって生じたのかということは,本件全証拠によっても明らかではない。よって,本件交通事故は,加害者が不明であるというべきである。

      もっとも,本件交通事故は,事実上ほとんど同一の場所において,F車とG車が5分という接着した短時間内にDに次々と被害を及ぼし,その結果としてDに死という一個不可分の損害を与えたものであるから,

      社会的に見て同一の機会に生じたと認められる場合であり,被告Fと被告Gの加害行為には,客観的な関連共同性があり,民法719条1項後段にいう共同不法行為が成立する。

      (2)ア 被告Gらは,①Dは,第2事故の時点で既に死亡していた,②そうでなくても,Dは,第2事故では致命傷を負ったものではなく,死が早まったものでもなく,第2事故とDの死亡との間に相当因果関係がないから,責任を負わない旨主張し,司法解剖医であるL医師の検察官に対する供述調書には,これに沿う供述が存在する。

      イ しかし,上記①については,本件事件の関係証拠を検討した複数の医師が,第2事故発生時でDの心臓が停止していたかどうかを判断することはできない旨の意見を述べていること,

      L医師自身,解剖結果立会報告書や検察官に対する供述調書において供述した「死亡状態」とは,循環,呼吸,中枢神経機能などがすでに停止した状態のみならず,これらが極めて微弱な状態も含むとし,第2事故発生時点で,心臓がわずかながらも拍動していたか,心筋が完全に停止した状態であったか判断を下すことはできない旨供述していること,

      生死判断の根拠となるDの創傷部位の出血の有無及び生活反応の有無については,医師らの間で認定が分かれており,また,骨近傍を負傷した場合や受傷直後に死亡した場合,受傷時に生存していても,創傷部位に出血がほとんどなく,生活反応がほとんど見られないことがあることにかんがみれば,

      Dに死亡後に受傷したと認められる創傷があるとは断定できない。そうすると,Dが第2事故の時点で既に死亡していたとまでは認めることはできない。

      ウ また,②については,上記イのとおり,Dの生活反応の有無による負傷時期の区別は困難であること,Dは,胸郭の前後,かつ,鎖骨から肋骨の高さまでの広範囲にわたる骨折,肺の深部にわたる挫滅,横隔膜破裂があり,Dには左肺を中心として胸部の広範囲にわたって胸郭の前後から圧力がかかったと考えられるところ,

      Dの上記受傷態様は,ドアミラーに胸部を強打したという第1事故の事故態様よりも,むしろ,G車の車底部で前後から胸部が押し潰されたという第2事故の事故態様と整合性があること,Dが胸部に負傷していない部位があることやDの着衣の損傷が少ないことは,

      G車の車底部は,部品の取付け状況により地上高に差があり,車底部とDの身体,着衣が接触しない部分があり得るから,Dの胸部に負傷していない部位があったり,着衣の損傷が少ないとしても,第2事故で負傷しなかったことにはならないことなどの事情にかんがみれば,Dが,第2事故により,左胸部の致命傷を負った可能性も十分にあり得るというべきである。

      (3)以上によれば,第2事故のときにDが既に死亡していたということは本件全証拠によっても明らかでないし,第2事故により致命傷が生じた可能性も否定できないことから,被告Gらの前記主張は採用できない。したがって,被告GらがDの死亡という結果に対する賠償義務を負うことを否定することはできない。

      3 争点(3)(過失相殺)について

      (1) 被告らは,Dが深夜にゼブラゾーン内に立っていたこと,第2事故前に本線上に転倒していたことなどを過失相殺事由として斟酌する必要がある旨主張する。

      (2)ア Dが,ゼブラゾーン内に立ち入り,前記認定のとおり,ゼブラゾーンの開始地点から進行方向に少し進んだ地点に佇立していたことについては,ゼブラゾーンが車道上にある車両の安全かつ円滑な走行を誘導するために設けられた場所であり,本来歩行者が立ち入ることを予定していないこと,

      本件道路は歩車道の区別があり,歩道を通行することが可能であり,少なくともゼブラゾーンの開始地点で歩道に渡ることが可能であったことにかんがみれば,

      Dにも危険な場所に立っていた過失があったというべきであり,これが本件交通事故の発端となっている以上,被告Fとの関係のみならず,被告Gらとの関係でも,Dがゼブラゾーン内に立っていたことはD及び原告らの損害の算定に当たって過失相殺の対象とすべきである。

      イ しかし,Dが本線上に転倒していたことについては,Dの意思に基づくものではなく,第1事故によって本線上に跳ね飛ばされ,後頭部や胸部を負傷し,自力で移動して第2事故を回避できない状態だったものであるから,これをさらにDの過失と捉えることはできない。よって,かかる事情は,過失相殺事由として斟酌すべきではない。

      (3)すすんで,Dの過失割合について検討すると,ゼブラゾーン内にいたDの過失割合が低いということはできないとしても,被告Fは,深夜でも明るく,見通しのよい道路を走行していたにもかかわらず,飲酒運転及び前方不注視という著しい交通違反を犯し,

      被告Gも,見通しのよい直線道路を走行し,さらに,Jが本件現場手前に発煙筒を置いて後続車に注意喚起していたにもかかわらず,飲酒運転及び前方不注視という著しい交通違反を犯し,いずれもDの存在に気付かないまま,運転車両をDに衝突させたものであることにかんがみれば,被告F及び被告Gの過失はDの過失にくらべて極めて重大といわざるを得ない。Dの過失割合は2割とするのが相当である。

H17.06.16 松山地判 事件番号 平15(ワ)849

  • 判決
    • ⅰ 高次脳機能障害とは,知識に基づいて行動を計画し実行する精神活動が阻害された状態をいい,その典型的な症状は,認知障害と人格変化(行動障害)である。

      認知障害とは,記憶・記銘力障害,注意障害,知能低下等の症状であり,人格変化とは,感情易変,易怒性,自発性の低下,抑うつ等の症状である。

      高次脳機能障害の有無・程度を診断するには,頭部外傷の有無・程度を正確に把握することが重要である。頭部外傷の有無・程度を把握するためには,受傷直後の意識障害の程度・持続時間の把握が必要となる。

      また,受傷直後の頭部CTやMRIなどにより,頭部外傷の有無・程度について判断することが可能である。

      高次脳機能障害の程度を判断する際には,診療医による具体的な所見,本人あるいは同居者による日常生活状況の報告が重要となる。

  • 損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合

H17.06.14 最高(三小)判 事件番号 平16(受)1888

  • 判決
    • 【要旨】損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならないというべきである

  • 1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務の履行期と履行遅滞
  • 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たっての過失相殺と国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額の控除との先後

H17.06.02 最高(一小)判 事件番号 平16(受)29

  • 判決
    • 【要旨1】法72条1項後段の規定による損害のてん補額の支払義務は,期限の定めのない債務として発生し,民法412条3項の規定により政府が被害者から履行の請求を受けた時から遅滞に陥るものと解するのが相当である。

      【要旨2】法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,上記葬
      祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除する方法によるのが相当である。

  • 交通事故による後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効が遅くとも症状固定の診断を受けた時から進行するとされた事例

H16.12.24 最高(二小)判 事件番号 平14(受)1355

  • 判決
    • 【要旨】前記の事実関係によれば,被上告人は,本件後遺障害につき,平成9年5月22日に症状固定という診断を受け,

      これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請したというのであるから,被上告人は,遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には,本件後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。

      自算会による等級認定は,自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず,被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,

      上記事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は,上記の結論を左右するものではない。

      そうすると,被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも平成9年5月22日から進行すると解されるから,本件訴訟提起時には,上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。

  • 不法行為により死亡した被害者の相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族厚生年金を控除すべき逸失利益の範囲

H16.12.20 最高(二小)判 事件番号 平16(受)525

  • 判決
    • 「被上告人らの損害賠償債務は,本件事故の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。

      本件自賠責保険金等によっててん補される損害についても,本件事故時から本件自賠責保険金等の支払日までの間の遅延損害金が既に発生していたのであるから,

      本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)。」

      「【要旨】不法行為により死亡した被害者の相続人が,その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,

      被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものと解するのが相当である。

  • 保険金の支払事由を火災によって損害が生じたこととする火災保険契約の約款に基づき火災保険金の支払を請求する場合における火災発生の偶然性についての主張立証責任

H16.12.13 最高(二小)判 事件番号 平16(受)988

  • 判決
    • 【要旨】本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わないものと解すべきである





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